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寒さ、疲れ、眠さ。それらが一気に襲い掛かる恒例の消耗戦が始まる…。 毎年のことだ。だが、それに対するマニュアルは「無理をしない」。それだけ。
気が付くとT原は自家用パジェロにて仮眠中。夜間走行に備えて抜かりがない。 居住テントでは石油ストーブが本格始動する。 S田は次の夜間走行に向け、自分の装備を干しだす。
各自、好きな食料を持ち出し食べ始めた。 おにぎり、パン、レトルトスープ、缶詰、温めるご飯…。バラエティー豊かなサバイバル食だ。しかしサバイバル食のために士気はほんの少し下がったような…。
そこにS尾がお手製おでん、予備リアチューブとともに到着した。 すでにお腹が満足しつつあった者も暖かいものに飢えていたのか目に光が宿る。 「やっぱ寒いときはおでんですよねー」 この暖かいおでんは夜間の生命線となった。
ライダーはN田に交代となった。 稲Yは睡眠のため車へ戻る。 居住テントではストーブの横でS田が意識を失ったように何もかけずに寝ている。奥では栗Tがシュラフにくるまり横になる。 死屍累々の様相である。
暇になった松Fは主催者に渡すレポートを書き出した。 自称”握力から体力まで全て落ちてしまった”N田は早々に戻ってきた。
ライダーはS尾に交代。 坂内を走るのは4年振りであるにも関わらず、夜からの出走だ。 走り出したS尾を見送り、N田と松Fはレポートを提出するためにクラブハウス事務局に向かっていた。 そこに無線が入る。 「S尾がトラブル。手伝いに来て!」 T原の声だ。 慌ててN田と松Fはピットに戻った。
しかし誰もいない。 S尾とT原を探してピットレーンを歩き回る。
この少し前、S尾はコースに入り3つ目のコーナーで止まっていた。 エンストだ。 S尾は回転数を合わせ損ねたのかと思い、セルを回し続けたのだがエンジンはかからない。だんだんとセルの元気もなくなってくる。仕方なくコース脇にマシンを置き、歩いてピットまで戻ったが誰もいない…。 まあ、夜ではよくあることだ。 いつの間にか起きだしたT原を何とか見つけ、一緒にマシンまで戻った。 先ほどの無線連絡はこのとき出されたものだった。
エンストの原因は、N田がガソリンコックOFFにしていたためである。 なぜN田はコックをOFFにしていか。 それはキャブレター不調のため、マシンを止めるとガソリンが漏れてしまうからだ。 それもこれもマシン整備のときにキャブレター内部部品(@2,000−)をケチったため。 安く上げるためにこれは仕方のない選択であった。
その後、S尾は順調に走っている、そうピットクルーは思っていた。 しかし、S尾は5周目下りのコーナーで足を攣らせていた。それも両足。少し休み、救援無しでなんとかピットまで戻ってきた。
ピットではN田が待ち受けていた。 オイル交換を済ませ、N田が仮眠に入る。
−0時近く− 空は晴れてきていた。 雨の後の都会とは異なる澄んだ空にオリオン座が輝いている。
ピットで舟をこいでいたT原が、S尾ピットインでライダーとして走り出した。 体が冷え切って暖気に時間のかかっていたS田は2:30ごろT原と交代。 4:00頃、6時間ほど睡眠をとった稲YがS田から引き継ぐ。 朝方、稲Yから交代した栗Tが走り出す。 また栗Tが戻ってこない。 ずっと起きているS尾が心配していると、ようやくピットレーンに姿を現した。マシンは草を引きずっている。 「草むらに突っ込んでましたよ」 教えてくれたのは隣のピットの方だ。テントにパンクに。今回は隣のピットにお世話になりっぱなしだ。 栗Tの後、S尾が繋ぐ。雨か朝露か。路面が光って走りにくい。 S尾からまたT原へ。夜の功労者達だ。 そして6:30ごろ、朝日とともにN田が現れ、T原からベルトを受け取った。
朝8時過ぎ、N田が走っている頃S田が寝ぼけ頭でやってくる。 「何でデンバード付けてないの?」 「私がつけれるわけないやん」 眠そうに松Fが答える。 「そうなの?」 言いながら、(偉そうに…)とS田は思う。 N田がピットインすると、S田は真剣な表情でテールランプを外し、デンバード装備を装着する。
「S尾さんアックスフォームだから、俺の装備から付け替えて」 S田が松Fに指示する。よくわからないままに松FはS田の指示通りに動く。
貫徹のS尾がアックスフォームで走り出す。
S田の頭の中にはすでに最終ステージまでの計画が出来ているようであった。 「ねえ、予備のダンプラどこ?」 「あー、どっかのコンテナに入ってるけど…」 急にS田に言われた松Fは居住テントを指す。 「探してみて」 松FはS田の方を見もしないで、ボディアーマーに取付穴を開けながら言う。 そこでなぜかS田はうれしそうになった。 「T原さん、テントのダンプラ、切って使ってもいい?」 「ん?いいよ」 と太っ腹のT原は答える。 松Fはハッとした。そうだ、奴はこれがしたかったのだ。 『坂内ではテントの床材ダンプラ使っているからいろんなモン作れるなー。』という話をデンバード製作中にしていたことを思い出す。 松Fは『貴様は軍馬を食らうナポレオン軍か!』と返し、くだらない話で終わりだと思っていたが…。 気付くとS田はすでに床のダンプラを切り出し、まだお披露目していない最終ライダーフォームの頭に付けるパンタグラフの製作にかかっている。
「仕方がないなあ〜」 と言いつつニタニタ笑いながら、松Fはパンタグラフに合うようにお面をパーツに切り離し、なるだけ立体に見えるようにヘルメットに付け始める。悪ふざけでは気が合うらしい。
ライダーはT原に交代。昨日のまま、N田のブレストガードについているロッドフォームで走る。
T原が走っている間に、 「栗T、走り足りないって? じゃ、ガンフォームだ」 そうS田に言われた栗Tは苦い顔だ。しかし走りたい気持ちと断りにくい雰囲気ができあがってしまっている。松Fも栗Tの意向など気にせず、ボディプロテクター愛用者である栗Tのためにガンフォームの付けられたブレストガードを渡した。
先日に引き続きいつまでも走ろうとするT原を今回は強引にS田が止めた。 「そろそろ交代してもらわないと都合が悪いんです」 これまた半ば強引にガンフォームにされたと主張する栗Tが走る。 そういう栗Tは昨晩、N田に「電王とは何か」を質問していた。 「栗ちゃん、恥ずかしがり屋だから。ホントはやりたいんだよ」 とS田は言うが、栗Tの心を知る者はいない。
−23時間と40分−
残り僅かである。 本来であれば、周数を稼ぐために速いライダーが走る、又は功労者を立てて最終ライダーとする、となるのが常套の流れだが・・・。 今回は “全てのライダーフォームでデンバードを走らせる” のがS田の計画だ。
稲Yのブレストガードには松Fによって さらにS田はライダーベルトの上に赤い装飾のケータロスなるものをつける。TVではこれがないとこのクライマックスフォームに変身できない。 微に入り細に入り「誰もそこまで見てないよ」なまでに凝っている。 走り出す稲Yに 「2周でお願いします!」 とS田は時計を見ながら確認する。
6分台のタイムを出して稲Yは約束どおり2周で戻ってきた。
−残り7分−
最終ライダーはS田。 TV本編で出ているなかで一番新しいフォーム。 松Fが予定外の新フォーム登場に半泣きで追加製作した涙と寝不足の結晶ライナーフォームを装着。 朝から精を出して作っていた頭の立体パンタグラフが彼の気合を物語る。 恒例の記念撮影の後、走り出す。
ピットレーンを抜け、コースに入ったその瞬間。
ずだあ。
……転倒。
現場を見ていた松Fは 「恥ずかしい〜」 とつぶやいた。
1周を終え、もう1周。 いける! なのに周回チェックポイントは渋滞している。 地団太を踏んでアピールするS田。 何とかチェックポイントを24時間経過前に通過し、S田はアクセルを開けた。
最後の河原ストレート。すぐ後ろにはデンバードのTV本編でのベースマシン、ホンダXRが迫っている。 「ここで抜かれたらかっこ悪いぞ。いい歳した大人がデンバード付けて仮装して、こんな場面で抜かれたらかっこ悪すぎだ。」 後ろにXRの存在を感じていたS田は自分にそう言い聞かせ、ギリギリまでアクセル全開固定。
ゴール! チェックポイントでフルブレーキ!
なんとかカッコ悪い目に合わずにすんだ。 ゴールチェックでマイクを向けられたS田、
「俺、参上!」
仮面ライダー電王を見ていない人には意味不明な言葉を残してHSTRのレースは終わった…。
ピットに戻ったS田にT原が 「満足したか?」 と皆を代表して聞いた。 S田は本当にうれしかったのだろう。 笑顔で頷いた。
その後…。 お世話になった隣チームの黄レンジャーを招いての記念撮影。 デンバードの雄姿を写真に収めてくださる方々とS田と松Fは談笑しつつ、撤収準備が行われる。
デンバードは装備をはがされ、普通、いや、ちょっとくたびれたTT−250Rに戻り、再度引き取りに来てくれたK森の軽トラに積み込まれた。
閉会式、恒例のじゃんけん大会の後、HSTRのメンバーは坂内から日常の世界へと戻っていった。
−おしまい−
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HSTR 2007 Presents
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