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9月某日。S田よりN田宅へ電話がかかる。 N田は仕事の疲れにより早々に寝てしまったため、相方、松Fが話を引き受けていた。
「あのさあ」 いつもの調子でS田が話し始めた。 「今年はデンバードで走らない?」
特撮大好き松Fは何も考えずに答えた。 「いいんじゃないっすか?」
− すべてはここから始まった。−
このとき、松Fは本気にしていなかった。 “どーせS田さんのことだ。やっぱ、しんどいからやめーって言うに決まっている”
しかし、S田は日頃になく熱心に話を進めてきた。 「そんなに完璧じゃなくても遠めでデンバードってわかったらいいと思うんだよ。でもTT−Rなんだよな。デンバードのベースってXRだし。シュラウドとかぜんぜん形違うよねー」 松Fはふんふんとうなづきながら適当に話を聞いていたが、急に 「シュラウドって何?」 と話をぶった切る。 いまいち、バイクに造詣が深くないのだ。 そのくせ 「どうせやるなら、S田さん、ハナちゃんのミニスカートはきなよ。作ったるって」 っと嫌がらせには積極的であった。
そこにつけこむS田。 「いいよ。やっても。その代わり全フォーム作れよ」 「うーーーーーーー」 まだ松Fは冗談の範囲内だと思っていた。たぶんS田もそのつもりだったのかもしれない。
仕事が忙しく最低限のメール以外拒絶していたN田に代わり、常に状況を把握しておきたいS田のメールの相手は松Fになっていった。 頻繁な連絡の担当を買って出たには訳がある。松FはS田をバイク整備の手伝いに引き込んでやろうと目論んでいたのだ。しかしそれは単に、気兼ねなく意地が張り合える場でしかなっていなかった。 次々とアイディアをメールしてくるS田。 それに真面目に返答する松F。 意地の張り合いと、奇妙な生真面目さが融合し、デンバードの案は具体化していく。
− 9月17日 日曜日−
バイク整備の手伝いをしにT原とS田がN田宅へとやってきていた。 ある程度の目処が付き、さて解散となったとき。
いそいそと帰り支度を始めるS田に松Fは意地悪く笑って言った。 「デンバードについて話をするって言ってなかった?」 帰っていくT原を恨めしそうに見ながら、S田は座りなおした。 S田は今後のデンバード製作についての案を一通り説明した後、 「みんな賛同してくれるかなあ・・・」 と急に弱気になる。 「そんなん、勝手に作ってつけちゃったらええねん。どうせみんなアドレナリンぶしゅぶしゅで前後見境なくなってるから」 松Fの強気の発言にS田不安そうに表情を曇らせる。 「やっぱりやってくれるか聞かないと・・・」 「んじゃ、聞きーや」 どんっとS田の前に電話が置かれる。S田は栗Tのナンバーを押した。
「S田だけど。あのさあ、コスプレしない?」 開口一番、それか!っとN田、松Fは顔を見合わせる。 「うん、うん・・・・。そう・・・・」 だんだんとS田の声が小さくなっていく。 これは否定的なことを言われているぞ・・・とN田と松Fはニヤニヤしながら事の成り行きを生暖かく見守る。 電話を切ったS田は心底悲しそうな声で鳴いた。 「やりたくないって・・・。すっごいテンション下がった・・・」 松Fはニヤニヤ笑いを隠そうともせずに 「聞いた人がマズかったんちゃう?他の人にも聞いたら?やってもいいって言うかもよ」 と励ましたが、S田は首を振って肩を落として帰っていった。
S田のバイクの帰途についてまもなく、外はどしゃぶりの雨が降り出した。
これで音沙汰がなくなるかと思いきや、S田のメールは途切れずに続いていた。刻々と代わる整備予定と状況の内容が主であり、デンバードの考えは堂々巡りを繰り返すばかりであったが、S田の情熱は湯沸かし器の種火のようにか細くではあるが燃えていた。
− 10月5日 金曜日−
流れが大きく変わった。
『これどう?』 S田より松Fに行間に喜びがにじみ出る画像つきのメールが届いた。 デンバードらしきフロントカウルペーパークラフトのミニチュアが写っている。 松Fは無情にも一蹴した。 「デンバードに見えません」
S田の意地に火がついた瞬間だった。 メールが届くごとにカウルの造型はよくなっていく。 しかし、松FはOKを出さない。 「だってデンバードに見えないもん」
1作目 DBに見えません 2作目 まだダメ 3作目 見えないもん 4作目 それっぽいね
10月6日 01:34に出されたS田のメールに、松Fは翌朝 爽やかにOKを出した。 「もう少し、てっぺんを低くできたらそれっぽいよね」
− 10月7日 日曜日−
当初予定では今日がバイク整備最終日。 メール予告ではS田がN田宅で作業をするとのことであった。 N田は 「来ないよ。S田だもん」 と偽予告だと言い張る。 こっちにも心積もりってもんがあるしなあ、と松Fが電話をかけることにした。 昼過ぎて、S田がN田宅に到着。 「呼ばれたから来た」 「いやいやいやいや。来るっていうたん君やし。ほんじゃ、バイク整備手伝ってなー」
荷物を置きに部屋を開ける松Fに、上着を脱ぎながらS田は憮然として言った。 「勘違いするなよ。 オレはデンバードを作りに来た。 そして君はオレを手伝うのだ。」 「えーーーーーーーーーーーー」 「どうして誰も止めようって言わないんだよ。そしたら作らなくていいのに。ハンガー貸して」 「止めるんなら自分でやめんかい。あー、人のせいにして楽になろうって魂胆だな」 「うん」 「うんじゃねえ」 などと言いながらも、デンバードの展開図は印刷され、話し合いの準備は整っていく。 パーツの採寸も行い、製作方法もほぼ決定し、大型ホームセンターへ買出しに向かった。経費削減。いかに安く押さえ込むかが勝負どころだ。
S田と松Fがバイクタンデムで乗り込む。S田が「バスに酔うから乗りたくない」と言ったためであることは、彼の名誉のため秘密だ。
しかしダンプラがあまりにデカいため、ショッピングセンターの無料バスで松F
「赤影どのー」 空が暗くなってきたころ、1mx1mのダンプラを背負った松Fが帰ってきた。 やっと作成にかかる。 原本をカウルとの比率に合わせてフォトショップで拡大。
「で、なんで原本がワードなん?」 「仕事でワードは慣れてるからな」 「はあ? イラストレータとかは?」 「俺が使えると思うか?」 ワードで展開図を作ってしまう能力に単純に感動した松F。とりあえず無闇に褒めちぎる。
拡大展開図をダンプラに仮止めをして、カッティング。 組み立て。グルーガンで貼り付け。
バックにはずっと電王の曲が流れ続ける。
ある程度形が出来上がったら、バイクにフィッティング。 フィッティングに夢中の二人を、一人で作業をしているN田は疲れきってうつろな表情で見ている。 松FはN田のため息とともに 「君ら楽しそうやなぁ」 と漏らした言葉に胸を痛めていたが、S田は至極楽しそうである。
カッティングシートとカラーガムテープでデザインをしていく。 中央の青い部分、ライトの黄色の部分、 そして、新幹線でいうところの運転席部分。
「ここは真っ黒でいいと思う」 と言うS田に松Fがダメだし。 「あかん。そこは色を変えるべきだ」 「でも色がないもん。黒でいいじゃないか」 「あかん!譲れん!」 と松Fは灰色のビニール袋を取り出してきた。 「これを貼れ」 しぶしぶとS田は黒の布ガムテで灰色のビニールを貼る。
「なあ」 S田はカウルの真ん中あたりを指差して 「ここまで黒のライン延ばそうよ」 「あんが?」 「そのほうがカッコいいよ」 S田は首をかしげて同意を求める。 「ダメ!」 「えーーーー、なんで?こっちの方がかっこいいって」 「貴様が作っているのはなんだ? かっこいいものか? 否、デンバードだ。 電車だろ? そこまで延ばしたら 電車じゃない! 却下!!」
「延ばしたほうがかっこいいのに・・・」 ぶちぶちつぶやくS田に松Fの一喝が響く。 「あかん!!!」
作業も一段落ついた頃。 時計は23時を指していた。 S田がフィッティングで仮止めされているデンバードをうれしそうに見つめながら、 「カラオケ行こか?」 と言い出した。 うれしさに前後の判断が付かなくなった様である。 バイク整備でへろへろになっていたN田。バイクのネジは締めたがどうやら自分の頭のネジは締め忘れたようだ。 「いこかー」 時間無いんとちゃうん・・・と思いながらも、歌が好きな松Fはその事実を知らせなかった。
・・・ 1時間ほどして、声の枯れた3人が作業を再度作業を始めた。
ホンモノ テレ朝 仮面ライダー電王 HPより (ベース車両 HONDA XR250)
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