- 闇夜の闘い -
経過:5:55 残り:18:05 栗T
そろそろナイトランの時間帯に入る。
T原も発電機を夜間用の大容量タイプに繋ぎ換える。
リアスプロケのボルトを念のため増締めし、給油を済ませ栗Tが独特の出で立ちで出て行く。
彼だけ上半身はインナーパッドを着込んでいるためやたらマッチョなスタイルとなる。
一方、ニーシンガードはアウタータイプである。
栗Tが出て暫くした頃、救援隊が帰ってきた。
リヤスプロケのボルトは、1本を残し全てせん断されていた。
スプロケのねじ穴にはせん断されたボルトが食い込んでいる。
昨年はスプロケ自体が砕け散ったので、今年はスチール製のスプロケを選択したのだが、まさか今度はボルトが折れるとは思わなかった。
おそらく先のピットインでS木が言った 「カタカタ音がする」 というのはこの事だったのかもしれない。
まさに24時間は何が起こるかわからない。
この少し前、見知らぬ女性お二人をK山が連れてきた。
今年の夏、K山とT邊は北海道ツーリングに行ったのだが、その際知り合った渡R(愛知から)さんとそのご友人のI藤(三重から)さんとのこと。
わざわざ差し入れを持って応援に来て下さった。
とてもありがたいことである。
来年は是非メンバーとしてお手伝いをお願いしたいものだ。
話を戻そう。
栗Tはレース経験が豊富なわけではないが、ここのところ急に速くなった。
いや、単に今までオフ車に乗っていなかっただけなのかもしれない。
ライディングスタイルも特に理想型ではないのだが、タイム的には速いのだ。
薄暗くなり視界が悪くなってきてもペースは落ちない。
常に8分台後半をキープし、10周でライダーチェンジとなる。
経過:7:35 残り:16:25 S尾
ここからS尾、K山、K森のCチームの分担になる。
3人体制のこのチームは、比較的少ない周回数でライダーを交代し、疲れに因る転倒やトラブルを避ける作戦を採る。
チェーン調整、油脂補給で7分半のピットタイム。
ここでガス補給中にちょっとしたアクシデント。ガソリンを溢れさせてしまったのだ。これは気をつけなければいけない。
真っ暗になった坂内バイクランド、レース2回目のS尾が初めてのナイトランに出て行く。
とは言え、彼はこのコースをよく知っている。
練習走行もしており、去年よりカメラマンとして自分の足で各所を歩いているからだ。
ここからライダーには夜間装備が装着される。
夜間、自チームの車両を判別できないというのが昨年の反省点だった。
そこで装着されたのが前述のLEDライトと識別灯。
今年はヘッドライトに付けた高効率ゴールドバルブが異彩を放っており、それだけでも車両特定は出来たが、識別灯があると更に認識が楽になる。
この識別灯、具体的には縁日で売っている、ポキッと折ると光るアレだ。
元々は宇宙空間での無電源光源確保に開発された物らしい。
これを車体の数カ所とヘルメットに装着する。
車体への装着はエンジン停止時の追突防止のため。
ヘルメットへの装着は、光源(ヘッドライト)から離したところに付け、ライダー判別の手がかりとするため。
丁度この頃宮T夫妻が到着する。
そして、宮Tは否応なくコキ使われる運命となる。
S尾はおおよそ12分台で3周走り終える。
経験から考えても初ナイトランとしては十分な結果である。
どうやら3周目で転倒してしまったため、安全を考えてピットインしてきたようだ。
マシンには特にダメージはなく、K山へと繋げていく。
この頃、AチームのHS川は次の出走に向けトランポ内で爆睡していた。
S田はパドックで寝ようとしたところ、 「何サボっとるんじゃい!」 とS木に蹴り起こされていた。
ヒドい話である・・・。
経過:8:22 残り:15:38 K山
2分半のピットストップの後、K山がゆっくりと出て行く。
しかし、2周目が終わったところでピット側から強制的にピットイン命令が出される。
命綱のライダーベルトを付け忘れたのだ。
とは言え大したロスではない。 再び闇の中へと消えていく。
少し遅い夕飯を柴Tが届けてくれた。
またまたパスタフルコースである。
パンもあるしスープもある。 フルーツもあり、食後にはコーヒーまで出る。
サポート用のご飯もある。
ん〜贅沢〜〜。
K山は11分前後で走り、6周でベルトを渡す。
後半は10分台に入ってきたので体力にはまだ余裕がある様だ。
経過:9:30 残り:14:30 K森
給油を済ませ、K森が出て行く。
周回する度にラップ計測者から周回数とラップタイムが無線で流される。
Y城、S田は仮眠に入り、ラップ計測は宮Tが行っている。
無線機を持って高台にあるレストハウスの方へ行ってみると松Fが三脚にカメラを構えている。
T原の一眼デジカメを借りた様だ。 バルブ開放でピット情景を撮るらしい。
見上げると満天の星空。 空気がきれいな証拠だ。
昨年はこの時点で雨が降っていたが、今年は明日まで天気は持ちそうだ。
しかし、そのまま目線を下げると、一種異様な光景。
ピットエリアのみ光を放っており、各ピットの発電機の唸り声が聞こえる。
視線を左に流すと上下に揺れながら高速で流れる光がいくつも見える。
山中からも時々光が漏れる。
それ以外は漆黒の世界。 山の端だけが浮き上がって見える。
そして山にこだまするエキゾーストノート。
こうして客観的に見てみると、正気の沙汰とは思えないところもある。
丁度その頃、ピットの裏ではなにやらゴソゴソしているヤツがいた。
T邊である。
本来天体望遠鏡を入れるバックからおもむろに取り出したのは・・・、ウォッカ、オレンジジュース、その他バーテングッズ。
どうやらカクテルバーでも開くらしい。
注文しているのは姐さん、HS川嫁だ。
T邊の作るカクテルは北海道のバーテン直伝。 これがなかなかおいしいらしく、彼女には大好評であった。
酔っぱらって上機嫌なヤツらをよそに、レースは淡々と進んでいく。
K森は10分台前半でラップ。 後半は9分台までタイムを上げ7周で戻ってくる。
経過:10:46 残り:13:14 S尾
ベルトは再びS尾に渡される。
11:20にタイマーセットした携帯が成り、HS川が叩き起こされる。
0:00からはHS川&S田のAチームが走ることになっているからだ。
4周してS尾が帰ってくる。
この時点で0時10分前。
本来ならば交代の時間だが、何故かK山がスタンバっている。 K森ももう一度走る用意がある。
どうやらスプロケ脱落の一件で、Cチームのスタートが1時間ほど遅くなっていた様だ。
このまま1時間遅れでローテーションするか、或いは正規配分に戻すか。
またもやどこに行ったか分からないN田は無線で呼び出される。
どうやら裏でうたた寝していたようだ。
既にこの時間、Bチームは仮眠に入っており、当初のローテーション予定で起床してくる手筈となっている。
無用に起こして時間変更するのは得策ではない。
経過:11:41 残り:12:19 K山
K山スタート。
結局スタンバイしていたK山まで走り、その後Aチームへベルトを渡すことになった。
この時点でN田は仮眠に入る事を宣言。
どうやらピットメンツの見える範囲にいないと常に無線で所在確認されてしまうらしい。
そもそも「役職無し」などと言うことを企てるからそうなるのだ。(笑)
とは言え、無線を切ってしまわないところが彼の良いところでもあるのだが・・・。
1:20に起こしてくれと言い残し、無線機を持って現場を去る。
K山、3周して予定通りピットイン。
経過:12:17 残り:11:43 HS川
レースも半分終了。 N田は無情にも無線でたたき起こされる。 12時間点検を行う時間だ。
ここできっちりとチェックを行い、少なくともメカニカルトラブルは発生させたくない。
夜明けまでは悪魔の時間帯に入る。
サポートも疲れて寝始め、実働人員が少なくなる。
ライダーも疲労から気力・集中力共に落ちてくる危険な時間帯だ。
特にこの0時から4時近くまでの走行担当は「寝不足」と言う面で最も辛い状況を強いられる。
大抵サポートも12時くらいまでは起きているため、なかなか仮眠を取り辛いからだ。
今回HS川はトランポ内でかろうじて寝ることが出来たがS田は殆ど寝ていない状態であった。
破損しながらも騙し騙し使っていたチェーンガイドを交換。
各部分の大洗浄、給油、グリスアップ等を行う。
この間約10分。
HS川が2回目のライディングに出る。
最初は9分台で様子を見るが直に8分台に突入。
最終的には8分台前半で走る
しかも昼間より長い14周を周回してライダーチェンジ。
さすが新婚、予想通り夜は強い様だ。
経過:14:33 残り:9:27 S田
破損箇所の修理等を行い、7分後にS田がメットに2本の識別灯を立ててピットアウト。
S田は夜間走行に少し問題を抱えていた。 他の者と光軸の好みが合わないのだ。
アクセルを開けていくためか、リヤ荷重が大きいためか、ライトが宙を照らしてしまう。
昨年同様、今年も路面状況が見難かったらしい。
更にS田にはもう一つの問題が発生していた。
HS川の走行中、S田は珍しく右手首にテーピングを巻いていた。
後から分かったことだが、この時点で既に右手首の剥離骨折をしていたらしい。
しかし、彼は転倒していない。 おそらく振動による疲労骨折ではないかとのこと。
何とも年寄り臭い話だ。
9分台から8分台へペースを上げた時点でピット側からライダーチェンジの合図が出る。
CチームのS木がスタンバっている。
10周を走り、ピットへ戻る。
これでAチームの仕事は終わった・・・筈だった。
経過:16:15 残り:7:45 S木
燃料補給。
3分のピットタイムを経て、S木が出て行く。
既にピットに残っているメンバーはごく僅かである。
ここでトラブルが発生したら・・・全員叩き起こすだけの事だが出来れば起こって欲しくは無い。
9分台前半の安定したタイムが続く。
今回は先ほどの様なアクシデントは無い。
無事9周を終えピットイン。
経過:17:41 残り:6:19 栗T
栗田がベルトを巻いてコースインする。
空も明るくなり始めてきた。そこには快晴の青空が広がっている。
パドックの端ではY城と宮Tがラップ計測を続けている。
反対側ではT邊(酔っぱらい)とS田(疲労困憊)が寝ている。
ちなみにこのパドックはコースから1mも離れていない。
脇を爆音マシンが通っていくのだが、この二人は寝ている。
人間、本当に眠ければどんな環境でも眠れるものである。
栗Tはほぼ8分、たまに7分台後半でラップし、9周走り終える。
今回、日夜問わず安定したタイムを出したのは彼だった。
Bチームの仕事もこれで終わり・・・の筈だった。
経過:19::00 残り:5:00 K森
いよいよCチーム最後の仕事である。
明るくなったためライトもゼッケンに換装、残り1/4とは言え、念には念を入れてのオイル交換。 給油も行い、11分のピット作業。
先ほど消化不良に終わったK森からスタートする。
時間は朝の7時過ぎ。
この頃になるとボチボチ起き始めてくるメンバーもいる。
K間、E藤も京都から応援に来てくれていた。
柴Tも朝ご飯を持ってくる。
今度は数種類のサンドイッチとコーヒー。 毎回思うがすごい量。 そして旨い!
良くこれだけの物を作って毎回持ってきてくれるものだ。
8周目、緊急ピットインが発生する。ブレストガードに何やら大きなものをはさんでいる。
どうやら他車と接触したらしくリヤフェンダーが転倒破損したらしい。
お守りの効果なのかどうかはわからないが、フェンダー自体がなくならなかったのは幸いである。
T原の電動工具が大活躍し、瞬く間に修理完了、そのままK森が続投する。
9分前半から8分後半で11周走る。
経過:21:00 残り:3:00 S尾
1分半のピットストップの後、S尾スタート。 流石に夜間とは異なり、10分台で走る。
ベストでは9分台も。
この頃になると、周回数も気になり始める。
数人が周回計測地点へ向かう。
ゼッケン3、自チームのゴルフボールと洗濯ばさみの数を数える。
122周だ。
次にゼッケン10、スカルライダースの周回数を見る。
123周。
当初予想していたほど差は付けられていない。
もしかしたら・・・という考えが頭をよぎる。
後はCチームがどれだけ頑張ってくれるか・・・だ。
そんな話の中、K森から申し出があった。
どうやら先ほどの接触転倒で足を痛めたらしい。
代わりにA,Bチームで走って欲しいとのことだった。
5周を終え、S尾が戻ってきた。実はこの周の最初、ピットレーンにて転倒していたのだ。
彼もこの時に足を痛めてしまい、後に歩くのが辛い状態になってしまったのだった。
(翌日怪我人のくせに酒を飲んで、痛みが酷くなってしまうという状態になるのだが・・・)
経過:21:56 残り:2:04 K山
折れたブレーキレバー交換後、K山は3周で戻ると言い残してスタートした。
ここで少し考えてみる。
スカルライダースには現在1周のビハインドだが、どの程度先行されているかは分からない。
レース終了近いというイメージもあるが、よくよく考えるとK山が戻ってきた時点でまだ1時間半はある筈。
学生時代からの長いつき合い、K森とK山の言いたいことはだいたい分かっていた。
先ずS木が走ると言った。
次に栗Tも。
HS川は装備を付け始めた。
S田は再び右手首のテーピングを始めていた。
3周したK山が戻ってきた。